加賀屋

石川県にある加賀屋グループの旅館「虹と海」に宿泊する機会を得ました。隣の加賀屋は、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で31年連続総合日本一になっています。”The おもてなし”のような組織で、非常に関心を持って見学させていただきました。

富山県高岡市から、夜間、車で和倉温泉に向かったのですが、道路にたぬきが飛び出してきました。七尾市は、人口6万人の地方都市で、ご多分にもれず、町は寂れています。和倉温泉も、客足が遠のいている印象で、加賀屋の他の旅館は再投資ができていないようでした。
加賀屋が支持される理由の第一は、地の利(と温泉)。七尾湾には、橋以外に目立つ建造物がありません。

瀬戸内海などにも、すばらしい景色のホテルがありますが、どうしても、視界に人工物が入ってきてしまいます。ど田舎だから良かったと言うべきでしょうか。地方の観光は、下手に建物を立てるよりも、こうした自然の景観を大切にするのが重要だと実感します。ほぼ完璧な内海なので、波がなく、鏡のような海水を温泉から満喫できます。

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次が、(気候と)従業員教育だと思いました。31年連続日本一ともなれば、日本最強のクレーマーを相手にすることになります。「こんな事もできないのに、日本一なのか」と言われるのは目に見えています。千人を超える宿泊客に「上げ膳据え膳」して、全員満足させるためには、並の従業員教育では済みません。
最初はマニュアルで基礎を徹底し、いかに、それを超えて「気働き」するのかが試されます。加えて私は北陸の気候・気質も影響しているのではないかと思いました。前日は、冬独特の曇り空。鉛色の空からは雪がちらつきます。これが冬の間中続くのですから、私のように関東の冬を当たり前と思っている人間には、「厳しい」冬になります。しかし、北陸の人には、「当たり前」の冬。この我慢強さが、顧客対応の忍耐強さのベースにあるのではないかと思います。

おもてなしとは、お客様のニーズに合ったサービスを提供すること、マニュアル通りのこと、お客様から言われたことをしているだけでは、真のおもてなしとは言えません。お客様の行動、会話をさりげなくチェックし、言われる前に、望んでいることをする。相手が期待していた以上のサービスを提供することで、感動が生まれるんです

社員を家族とみなす経営も、直系家族な北陸地方には、マッチしているのではないでしょうか。東京でやったら、若い従業員はToo muchだと思うかもと感じました。
実は、チェックインする際に、部屋がうまく取れていないというトラブルがありました。2つの意味で感心しました。ひとつは、満室にする努力をしていること。我々の予約がきちんと入っていなかったのはオペレーション上問題なのですが、当日まで満室にする努力をしているから、オーバーブッキングになるのだと思います。
謝罪の方法も、お手本通りでした。

 イ)一番上の人が謝る(小出しにしない)、
 ロ)自分の非を認めたら、思い切り謝る(特別サービスをしてもらいました。)

 こうなると、細かな点も好意的に見えてきます。私は、歯ブラシにホテルの芸風が出ると思っています。格安ホテルは、省略したり、量産品を使います。高級ホテルはしっかりとした歯ブラシを出しています。虹と海は、毛先の細い歯ブラシでした。旅館のターゲット顧客であるファミリーから上の年代のことを考えてのチョイスと受け取りました。

第3は、進取の気質。旅館は設備産業でもあり、設備投資が不可欠なのですが、30億円もの投資は、容易に踏み切れるものではありません。ホームページも洗練されており、Twitter, Facebookもきちんと使いこなしています。「虹と海」のようなグループ旅館では、朝食バイキングもあっさりと取り入れており、柔軟に顧客ニーズに対応しています。
温泉のマッサージ機も、Panasonicの最新式で感心しました。100円を入れる形にしているホテルが多い中で、ここは無料。こういう細かい決断がなかなかできないものです。
加賀屋の館内は、決して「上品」ではありません。加賀友禅などの展示品を見れば、経営者に審美眼があるのは明らかです。和のテイストで統一するのも容易でしょう。しかし、エレベーターがスケルトン&電球付きで微妙に「下品」になっています。
それなら、加賀金箔を全面に出せば、インド・チャイナの観光客は喜ぶと思いますが、それもほどよく抑えられています。外国人に媚びてはいないが、外国人が求めている日本は体現している。良いバランスだと思いました。
館内案内もマルチ・リンガル対応。玄関の歓迎看板は、電子化されてました。日本ではあたりまえの「黒地に白字」が台湾では葬儀の案内というのもビックリでした。
地元出身のパティシエ、辻口博啓さんの美術館も観てきました。地域振興は建物でなく、ヒーロー(ヒロイン)を作ることなんですね。東京は、タレントを次から次へと消費します。地方こそ、粘り強く、才能のある人を押せばいいですね。
加賀屋は、北京飯店と提携し、従業員を受け入れています。台湾では、日勝加賀屋が立ち上がりました。


アジア諸国は、日本からものづくりを学んできましたが、今やのは、「おもてなし」を学びつつあります。
日本人MBAホルダーは、ぜひ、一度、和倉温泉に来て、新たな海外戦略を練って欲しいと思います。

では。

参考
http://bs.doshisha.ac.jp/download/files/business_case1/08-03-dbCase-Ishikawa-Toya-Final.pdf