Ⅲ. フィヨルド
1. ラウマ鉄道
ガイランゲル・フィヨルドには、鉄道で行くことにしました。ラウマ鉄道(ドンバス~オーンダルスネス)の景色が、良いと聞いたからです。長時間の移動はもう辛いので、オーンダルスネスで一泊することにしました。
オスロ中央駅を出発し、オスロ空港を通過したあたりから大地がうねってきます。平地ばかりのオランダに住んでいると、これだけで興奮してきます。深い緑に目をやりながら、電線がないのに気づきます。これが、ノルウェーの森なんですね。
4時間走ると、ドンボス駅。ここで向かいのホームに止まっている2両のディーゼルカーに乗り換えると、ラウマ鉄道が始まります。
しばらくして気づくのですが、これは海水のないフィヨルド・クルーズなのだと。地形は、フィヨルドと同様、氷河が大地を削りとったために、両サイドに山がそびえ立っています。見上げても山頂が見えないほど高いのは、アルゼンチンからチリに向かうアンデス越え以来です。4000m級の山をバスから見上げても頂上は見えませんでした。ノルウェーは1500mだとは言え、氷河が削った谷が狭く、両サイドに切り立った山があるので、非常に急な斜面になります。
世界の車窓からで期待する、山、川、滝、丘、ヤギ、羊と全部入りでした。同番組でも2013年に取り上げられてますね。
1.5時間ずっと楽しめました。私の鉄道ランキング1位は、ケープタウンのSouthern Line でしたが、それを上回りました。
天気に恵まれたのも大きかったです。ノルウェーの西海岸は、欧州で最も雨の多い地域の一つです。海で水分を吸った空気が、フィヨルドにぶつかって急激に上昇。雲になります。日本の冬の西高東低で日本海側に大雪が降るのと同じ原理ですね。山がほぼ崖なので、空気が急上昇するからでしょう、かなり低いところから雲になっていました。
ノルウェー旅行の要諦は、日程に予定をもたせ、行事を詰め込まず、天気に合わせて移動することだと思いました。
2. バス
オーンダルスネスからガイランゲルまでは、バス移動です。これがまた、最高のドライブでした。バイク乗れるなら、こんなに気持ちの良い道もないでしょう。平地のドライブもごきげんなのですが、トロールの通り道と呼ばれるいろは坂を登っていくと、巨大な峡谷が見えてきます。何億年もかけて氷が削ったのだと思うと、役職定年で気落ちする自分が、小さく見えるのではないでしょうか。私と同年代の方にお勧めです。
バスは、途中3回休憩を取りながら進み、途中、カーフェリーにも乗りました。あまりにフィヨルドで分断されている地域なので、カーフェリーが地元民の足として定着しています。ちょうど、腰が痛くなったところで、船の上からフィヨルドが見えるなんて、お得としか言いようがありません。
ガイランゲル・フィヨルドを見渡す展望台に着くと、あまりのスケールに息をのんでしまいました。ここが感動のピークです。写真に取ると、大型観光船がボートぐらいに見えてしまって、大きさが伝わりません。
海から山が見えるといえば、立山連峰ですが、3000mの立山から富山湾までは50km。常願寺川は、最も急流な川ですが、それでも海までは川として流れています。
しかし、ノルウェーのフィヨルドは、1000m地点から、滝として海に水が落ちているのです。こんな景色は他では見られません。私も岩手の美しいリアス海岸をバスに乗りましたが、「両サイドが」切り立った1000mの崖になっているわけではありませんでした。
しばらく見とれていると気づくのが鏡のような海面です。海なのに波がありません。それは大西洋から100kmも内陸に入っているからでしょう。
荒川でたとえると、高崎あたりまで入江になっており、両岸の高さが東京スカイツリーよりも高いとでもいいましょうか。尋常ではないのは理解していただけるでしょうか。
波がないもう一つの理由が、水深が260mもあるということです。海面が下がれば、あと200mも谷が続いているわけで、この水面下の部分も、氷河が削り出したわけです。
展望台からいろは坂を下って、船着き場でバスを降りると、カモメがお出迎え。たしかに海辺なので正しいのですが、こんな高い山をバックにSeagullを見ると、不思議な気持ちになります。
こんなところに来たら、ボーっとするしかありません。桂林の川下りも素敵でした。しかし、これほどの迫力ではないですね。あくまで奇景。グランドキャニオンに匹敵するスケールですが、やっぱり、水があるのは大きいです。どこから写真を撮っても絵になります。
レストランで出てきたタップ・ウォーターが、絶品であったことも申し添えます。そりゃ、不純物なしのおいしい水が湯水の如く?使えるからでしょう。無料でした。
カーフェリーに乗って1時間ほど、クルーズを楽しみました。下から見る両岸の山も素晴らしかったです。世界中からの観光客が、ずっとスマホ撮影しっぱなしでした。
四捨五入すると還暦な私にとっては、体力を使わずに、これほど感動させてくれるのであれば、文句ありません。初老の不安はいろいろありましたが、こういうスケールの大きな大自然を目の当たりにすると、小さなことでくよくよしても仕方ないと思うようになりました。それだけでも、ノルウェーに感謝です。