【本】カーブアウト経営革命

カーブアウト経営革命―新事業切り出しによるイノベーション戦略
カーブアウト経営革命
木嶋 豊 東洋経済 2007/2

先日ご紹介した「ハゲタカ」の6月再放送がに決まりました。三洋電機を見ていると、現在進行形のドラマだと思ますね。
こうしたバイアウト・ファンドが活躍する一方で、本書は「カーブアウト」について、豊富な事例に圧倒されました。大企業が有力事業を子会社化して、上場させるということはよくあったのですが、本書では経営手法としてのカーブアウトを体系的に学ぶことができます。


カーブアウトの目的については、日立元取締役技師長牧本次生氏の言葉を引用しています。

企業は大きくなるほどに、経営におけるディシジョン・メイキングの遅れが目立つようになり、世の中が要求するスピードについていけなくなる恐れがある。すると、社会全体が活性化しなくなり、国際的な競争力の低下にもつながってしまう。大企業がすべてを統括し市場をリードする時代は終わりを告げ、これからの時代はエンジニアが持つ鋭い洞察力をカーブアウトによって外部へ切り出すことで、よりグローバルな視野とスピードを得ることができる。また、エンジニアにとっても、研究開発に集中することのできる環境を得ることができるカーブアウトは自分の未来を切り開く絶好のチャンスとなるはず(P.48)

日本の電機メーカーが陥っている、コングロマリット・ディスカウントについては、次のように述べています。

たとえば、日立、東芝、松下電器、ソニー、三洋電機の5社を部門ごとに分解し、トランプの「51」のように同じマーク(同じ事業)でリシャッフルして新しい企業体を作れば、5社すべて世界に冠たる高収益企業が誕生するはずである(p.52)。

そして、カーブアウトを以下のように分類したうえで、さまざまな事例を紹介しています。
カーブアウト
I-1の例は、富士電機→富士通→ファナック。GM→デルファイ。
I-2の例は、協和発酵フーズ。
I-3の例は、SCE。
II-1の例は、NEC+日立→エルピーダメモリ。
II-2の例は、栗田工業+同和鉱業→ランドソリューション。
P.60でカーブアウトの案件分析をしていて、面白いのは、親元企業は当初新規事業型カーブアウトを研究するが、技術融合型へ8割が変わるということです。
第4章では、実際にカーブアウトした人のコメントが掲載されています。たとえば、フィズケミックス坂本仁志氏。

経営人に顧問などの肩書で偉い人はそろえないほうがよい。偉い人の意見は当然異なるし、全員に対して説明するとなると大変である。むしろ、企業の部長や助教授クラスを1人引っ張ってくるなら、間違う可能性はあるかもしれないがスピードは出る。スピード感がないと、何のためにカーブアウトしたのかということになってしまう。(P.128)

企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続第5章では、ランドソリューションのケーススタディを取り上げています。興味深かったのは、栗田工業の経営判断の根拠を、リソースベース理論に見ているくだりです(P.136)

企業内部で、ある範囲の経済を達成しようとするときに、経路依存性が高く、不確実性を内包し、社会的複合性を有するような経営資源やケイパビリティを必要とする場合、それらの経営資源を自助努力によって開発しようとするよりも、それらをすでに保有している他企業とのアライアンスを通じて確保した方がコストが小さくて済む

冷静に考えればそうなんですけど、なかなかそういう判断はできないものです。

では(^^)/^