韓国が成し遂げた偉業の一つは、直系家族的なアーティストが世界に通じることを証明したことだ。1989年に初めて海外(アメリカ)に行った時、私が会ったアメリカ人で日本人歌手を知っていた人はゼロだった。私が、マイケル・ジャクソンやマドンナを始めとする80sの洋楽にハマっていたのとは対象的だった。
その時に、各家族的な個人の激しい競争を勝ち抜いた、コーラスライン的なノリでしか、世界で活躍できるアーティストにはなれないものだと思っていた。日本の直系家族的な先輩、後輩的なノリが、世界に通じるわけないと。
ところが、韓国初のアーティストは、BTSにかぎらず、バリバリの先輩後輩ノリで世界制覇してしまった。Twiceが、マルチナショナルなグループであるが、日韓台の直系家族国出身者のみで編成されている。「姉(オンニ)」「妹(マンネ)」の上下関係が、国を超えて機能し、世界に受け入れられているのはちょっと感動的ですらあった。
国際政治に詳しい方は、最近のグローバルサウスを想起するだろう。1980年代の世界の音楽市場は、核家族的な西欧社会中心だった。2020年代になると、実は、人口ベースでは、権威主義的な文化に住む人が過半で、その人たちがお金を払うようになった。事務所の宿舎生活でも先輩、後輩関係丸出しのアイドルに違和感を持たなくても、不思議はない。
1960年当時、日本女性の所得は低かったが、女性の所得が増えるに連れて、ジャニーズが隆盛していったのと似ている。
韓国の「国民の妹」IUのYouTubeを見ると、こうした変化を実感できる。
運営はよく知らないのだが、彼女のYouTubeに、他のアーティストが参加して、スマスマのような番組になっている。フジテレビなしの。
日本であれば、LOVELOVEあいしてる的なアーティストがMCで、他のアーティストを呼ぶ場合には、テレビ局の仲介が必要だった。映像とか放送とかいう事情の他に、ブッキングで事務所間の利害を調整する必要もあっただろう。稲垣吾郎さんが、事務所を辞めてからお台場に戻ってくるまで6年かかっているのが典型だ。放送作家的な付加価値もテレビ制作会社が付与していた。
しかし、直系家族的な文化では、広がりに欠けていた。小田和正さんが、アーティストに参加を呼びかけた「クリスマスの約束」がよい例だ。やっぱり、先輩・後輩があると、We are the world のような広がりは期待できない。
深さでいえば、日本でもFMでアーティストが番組を持ち、他のアーティストと深い話をすることはあった。しかし、ラジオという小さいパイの中でニッチな話をする、直系家族にありがちな「細かすぎて伝わらない」的なノリになっていた。
IUのMCを聞いていると、先輩・後輩のノリがまったく崩さずに、再生回数は200万回を超え、コメント欄は、さまざまな言語で投稿されている。アメリカで似たようなトークショーをしたら、どちらかが暴れだして収集がつかなくなるのではないか。直系家族的な文化には、画面に秩序をもたらすのもわかる。
彼女の質問は、同時代にステージに立ってきたアーティストならでは。優秀な作家がいるのかもしれないが、10年に渡るKARAとの関係がなければ、こんな率直な回答も得られないだろう。
日本の芸能事務所や、レコード会社も、直系家族的なノリでアーティストを世界に売り出すノウハウがあるのではないか。いままでは、海外で売れるには、核家族的なノリに変わらないといけないと思いこんできたのではないだろうか。気がつくとグローバルサウスがお金を持ち、権威主義的なノリも致命傷にはならなくなっていた。
芸能事務所もアイドルの発掘・育成も変わることだろう。10年後にこんな番組を回せる人を育てられれば、テレビ局が要らなくなるのだから。宮脇咲良さんは、その先頭にいるようにみえる。