2023年10月から2024年3月にかけて、厦門、上海、那覇、熊本、千歳を見てきた。私の頭に浮かんだのは、シリコン列島だ。新竹のTSMC、熊本のJASM、千歳のRapidusを結んだ線上で半導体産業が立ち上がり、日本のものづくりが変わっている。
時計の針を1989年に戻すと、私はとある国際会議でニューヨークにいた。当時は貿易摩擦のピークで、私は貿易不均衡について議論した。経済学的な話をして他の国の参加者に論破された記憶はない。しかし、1986年の日米半導体協定は確実に作用し、日本の半導体産業はその後衰退した。
半年後の1990年春、私は上海に行った。人民は貧しく。夜は電灯もまばら。私が最初に覚えた中国語は「没有」(メイヨウ)だった。
それから35年。中国は目覚ましく成長した。アメリカもITの波に乗り復活した。日本は高齢化で衰退した。それがまた、次の段階に移ろうとしている。
2024年の上海は、目抜き通りは日本と変わらないほど華やかだが、子どもは少なかった。老人をよく見るようになった。不動産バブルが崩壊するのは当然だ。しかし、週刊誌が書き立てるほど、中国社会が壊れているようにはみえなかった。今後、長きに渡って成長の重しになるとはかんじたが。
熊本でみたJASMは圧巻だった。たった1社の進出で、熊本の製造業が変わった。仙台の高校生が熊本に就職する。JASMの新入社員が台湾に研修に行くとか。これまでではなかったことをいろいろ聞いた。
千歳のRapidusは建設中。地元の人が実感が無いと言うのは無理かなることだ。苫小牧は、国家プロジェクトで開発されたが、人口減少が止まらない。しかし、今年度予算が動き出せば、手応えが出てくるだろう。
かつて日本の通産省を批判していたアメリカは、TSMCに1兆円の補助金を出す。時代は変わった。
地図を眺めて思うことは、シリコン列島は、自然災害の多い直系家族地域ということだ。日本も能登半島地震があったが、花蓮でも地震があった。0.1秒でも電圧が変わると、損失が出るという半導体製造に向いている地域とは言い難い。
日本もかつて、製造業からサービス業に産業構造を変えなければいけないと言われていた。しかし、世界で競争力を持っているのは、トヨタやキーエンスといった製造業だ。実は台湾も、ITサービスで世界を制しているような会社は思い浮かばない。
半導体製造はハイテクだが、シリコン列島が得意なのは受託製造だ。技術革新は、絶対核家族地域のIBMやASMLなどがリードしているのも興味深い。
結局、絶対核家族と直系家族は、戦争するほど仲が悪いが、相互補完できるのではないか。直系家族はものづくりが得意だし、絶対核家族はリスクをとって技術革新を起こすのがうまい。日本が無理してITサービスの世界企業を作ろうとしても、楽天のようになるだろう。アメリカがTSMCに1兆円お金を出しても、工場建設は遅れる。35年経過して、また、リカードの比較優位論に戻った気がしている。