グロービスから新規事業の報告書が発表されました。
グロービス、新規事業を「次代の中核事業」へ育てる「創造中心経営」を提言
https://globis.co.jp/news/corporate-training/13393-2026-08-03/
よくできているのですが、私の主張する「直系家族の罠」がよくわかる内容でもありました。
直系家族というのは、長男が家督を継ぐ家族です。親と同居するので、権威や秩序を重んじます。日本、朝鮮、台湾、ドイツ、スイスなどが直系家族です。
直系家族の罠とは、高齢化が直系家族の成長をより妨げるということです。高齢化で成長が鈍化するのは万国共通です。その中でも直系家族は、先代の考えを踏襲し、長い年月をかけてトップになるため、経営判断のミスをしなくなります。選球眼が良すぎて、ボール球に手を出しません。民間人なのにロケットを打ち上げ、地球に戻ってきたところを箸でつまもう、なんてことは、誰もしません。失敗しないことは、個社にとっては良いことですが、社会全体を見ると、誰もリスクをとらない状態となり、停滞が続くのです。
本報告書のメンバーは、全員、日本人男性ですね。
次に、新規事業を成功させるにはどうしたらいいか、1年も真面目に議論してます。37年前に国際学生会議に参加したことを思い出しました。日本側の学生は、11月にニューヨークで開催される会議に向けて、半年かけて準備しました。アメリカ側は、そもそも、個人の意見をまとめたりしないと聞いて仰天しました。それぐらい、直系家族には組織として意見をまとめようという自制心が働きます。一方、親と同居しない絶対核家族は、個性・自由を重視するのです。
報告書が最も強く主張するのは、経営トップの覚悟(Resolve)です。直系家族は長男が重要なのです。絶対核家族なら、おそらく、自由や実行力と言うのではないでしょうか。そもそも大企業では新規事業が成功しないとか、グロービスの主旨を否定しかねません。直系家族は、大企業を否定しない傾向があります。
第2が密造酒。予算は既存事業として確保し、若手に新製品の開発をさせるのは、ソニーのお家芸でした。ITで予算がガラス張りになり、そんな悠長なことは言えなくなりました。本報告書では、その新規事業を、トップが防波堤になって守れと主張してます。直系家族では、長男に責任があるのです。
第3が、異端の個の抜擢(Awakening)。直系家族には、これが本当に難しいです。そもそも、異端どころか血がつながっていないと抜擢しないからです。最近の皇室典範をめぐる議論は、普段は見えなくても、日本社会に厳然と存在する直系家族の伝統を可視化してくれました。トヨタは、豊田社長が経営する国なのです。
最後が、持続的な継承(Lasting)。新規事業について議論していても、継承について触れたくなるのが直系家族。絶対核家族なら、スクラップ(断絶)に悪いイメージがないでしょう。
クールジャパンであれほど失敗したのに、17も戦略分野も設定するのが日本。あくまで長男(政府)が責任をとって新規事業に取り組まないと、国民が許してくれない。30年以上も借金して事業をし、ボロボロの財務状況なのに。
そんな、コーポレート・ジャパンで新規事業を成功させたかったら、本報告書にあるようなことを実施する必要があると思います。私が補いたいのは、家族類型を踏まえて、直系家族の弱点を補うことです。
- 徳川方式
なんと言っても、優秀なトップを選ぶのが、直系家族では致命的に重要です。直系家族は竹のように事業承継します。男子が生まれなかったら、御家断絶と言われるほど脆いのです。
中華系は、ガジュマルのように複数の根を持ってファミリービジネスを維持します。複数家族を見回して、最も優秀な子どもに継がせます。
徳川家も、尾張だけでなく、紀州、水戸で血統を繋ぎましたね。キッコーマンも複数の創業家が、経営者を務めています。
建前的には、創業家にとらわれず、実力で社長を選ぶべきです。しかし、それが難しければ、竹でなくガジュマルにして、競争を起こしましょう。 - ソニーミュージック方式
大賀会長は、ソニーミュージックを御殿山に作りませんでした。青山や市ヶ谷など、品川から行きづらいところに作りました。社員も中途採用して、ソニーからの出向を少なくしました。さらに孫会社、レーベルを作り、若いトップを抜擢しました。
Sony という看板を守りながら、ドラッグのリスクのあるアーティストをマネージするというのは、至難の技です。大企業の新規事業というのは、まさに、この矛盾に取り組むことなのだと思います。
管理側の有能な人材にも恵まれました。箸の上げ下げまで指示するようなマイクロマネジメントでヒット曲が生まれるわけがありません。一方、この人に嘘をついたら、見抜かれるという知識。ギリギリで倒産させないシミュレーションの力など、管理側の力量に支えられないと大きなリスクは取れません。 - マッカーサー方式
そもそも、資本主義は、絶対核家族と直系家族が合わさったところで生まれました。絶対核家族のイングランドが海外貿易で資本を蓄積し、直系家族なスコットランドが蒸気機関→造船業を発達させて、大英帝国を築きました。
欧州大陸側では、絶対核家族なオランダと直系家族なドイツのモノづくりが組み合わさりました。フィリップスがオランダにできたのは、直系家族のモノづくり文化なしには語れません。
日本も、絶対核家族な薩長が明治維新を起こし、東北・北陸の直系家族地域の労働者が上京して資本主義が発達しました。戦後の復興は、絶対核家族な米国がもたらした資本と気風が、日本のモノづくり文化とぶつかってできたのではないでしょうか。
直系家族的な組織は、絶対核家族と協業することで、新しい事業を生むことができます。もちろん、絶対核家族(米英)と直系家族(ドイツ)は、2度におよぶ世界大戦を戦うほど、文化が違います。ソニーの中の人に聞いても、ストリンガー会長を評価する人に会わないです。
しかし、絶対核家族とぶつかってこそ、直系家族の限界を認識できます。社長を外国人にするのはハードルが高すぎるかもしれませんが、絶対核家族な会社との協業は、たとえ、実らなかったとしても、多くの学びをもたらすはずです。

まとめますと、日本の大企業で新規事業が停滞している一因は、直系家族の罠にハマっている可能性が高いです。先輩から技術を引き継ぐ、秩序だってモノづくりができるという長所は残しながら、新規事業に必要な創造的な破壊を起こすには、文化のレイヤーまで手を打たなければならないと思っています。