1. デルフト工科大学

TU Delftは、1842年にオランダ国王ウィレム2世によって設立された、オランダ最古にして最大の工科大学です。工学・技術分野の総合大学として、特に機械工学や建築学で世界的に卓越した地位を確立しています。QS世界大学ランキング2025では機械・航空工学部門で世界第3位、建築学部門でも世界第6位にランクされ、総合ランキングでは世界49位という高い評価を得ています。

大学には約2万人の学生が在籍し、そのうち約37%が海外からの留学生で構成される国際色豊かな環境です。キャンパス内では英語が共通言語となっており、グローバルな視点で技術的課題に取り組む協働学習が実践されています。

研究面では、持続可能な技術開発に注力し、量子テクノロジー、環境科学、コンピュータサイエンスなど幅広い分野で革新的な研究を展開。創立以来、3人のノーベル賞受賞者を輩出し、産学連携や起業支援も盛んです。

2. Emergence Delft

エマージェンス・デルフト(ED)は、デルフト大学が中心に設立されたテクノロジーをアートとして表現するNPOです。

項目内容
組織形態デルフト工科大学を中心としたの学生チーム (財団として登記)
設立年2023年9月正式発足
使命芸術と技術を融合し、デジタル社会の複雑な技術について一般の人々に考えるきっかけを提供する
活動内容新しいメディアアート作品の研究開発を行い、インタラクティブな芸術インスタレーションを制作・展示
メンバー構成デルフト工科大学の学生とハーグ王立芸術アカデミーの学生約36名(エンジニア、デザイナー、アーティスト)
組織体制• 管理部門(Management)
• 運営部門(Operations)
新メディアプロジェクト部門(New Media Project)
• プラットフォームプロジェクト部門(Platform Project)
• スケーラビリティ部門(Scalability)
主な役職• チームマネージャー
• 新メディアマネージャー
• プラットフォームマネージャー
• 運営マネージャー
• パートナーシップ担当
• 広報担当
など
活動拠点デルフト工科大学 Dream Hall
主な展示・イベント• 毎年の最終成果発表会
• オランダ デザイン・ウィーク
• STRPフェスティバル
World Expo 大阪 2025(出展予定)
特筆すべき実績• オランダでは初のアート&テクノロジーに特化したDream Team
マウリッツハイス美術館での展示
パートナー企業・団体からの知識、機会、経験、材料、財政支援を受けている
目標世界最大の新メディアアート大会「Prix Ars Electronica」での受賞を目指す

Emergence Delftは、現代のデジタル社会において複雑化する技術の影響について人々に考えさせる場を提供することを目的としています。エンジニアリングとアートを融合させたアプローチにより、テクノロジーに対する新たな視点や理解を促進しています。

3. Coexistプロジェクト

Coexistは、EDが2024年に手がけた大規模なアートインスタレーション作品です。量子物理学の原理を芸術に変換し、社会における多様な視点の重要性について考察を促す革新的なプロジェクトです。

A) 作品の概要

Coexistは量子物理学における「重ね合わせ」(superposition)や「観測者効果」などの原理を視覚的に体験できるように設計されています。作品の中核には白色光が使われており、これが量子の重ね合わせ状態の比喩として機能します。

B) 主要な特徴

  1. 白色光と量子の重ね合わせ: 白色光(すべての色が重なった状態)を量子の重ね合わせ状態として表現
  2. 偏光フィルターによる状態の選択: 光を偏光媒体に通すことで特定の色だけが見えるようになる様子が、量子状態の観測による「崩壊」を表現
  3. 社会的メタファー: この視覚的変換は、社会における単一の視点が部分的な理解や分極化をもたらす様子のメタファーとして機能

C) 作品の意義

Coexistは単なる科学普及を超えて、量子物理学の原理と社会問題との間に意味のある関連性を見出しています。核心となるメッセージは以下の通りです:

  • 複雑な現象は多様な視点から観察することでより深く理解できる
  • 単一の視点や分極化された理解では全体像を捉えることができない
  • 量子物理学の教訓は社会の複雑な課題にも応用できる

D) 制作チーム

Coexistは16名の学生からなる学際的なチームによって制作されました。メンバーはデルフト工科大学とハーグ王立芸術アカデミーから集められ、エンジニア、デザイナー、アーティストなど多様なバックグラウンドを持つ学生が協働しました。

このプロジェクトはオランダの量子技術研究機関であるQuTechとの緊密な連携のもとで進められ、量子物理学の複雑な概念を一般の人々にわかりやすい形で伝えることを目標にしています。

Coexistは、芸術と科学の架け橋として機能し、難解な量子物理学の概念を体験的に理解できるようにするとともに、私たちの社会における多様な視点の重要性について深い問いかけを行う意欲的な作品です。

E) 展示実績

  1. マウリッツハイス美術館(オランダ・ハーグ): 2025年1月30日に初公開
  2. UNESCO本部(フランス・パリ): 2025年2月4-5日、国際量子科学技術年の開会式で展示
  3. 大阪・関西万博(日本): 2025年7月24日、オランダパビリオンで展示予定

マウリッツハイス美術館は、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」で有名ですが、そこでCoexistを展示をしました。

4. Coexist の中学生向けの解説


🎨《Coexist(コエグジスト)》ってなに?

この作品は、むずかしい「量子(りょうし)物理学」の考え方を、光と色を使って体験できるようにしたものです。でも、ただ科学を見せたいだけじゃありません。この作品には、「いろんな考え方があることの大切さ」というメッセージもこめられているんです。


💡どんなふうに体験できるの?

この作品では、「白い光(しろいひかり)」がとても大事です。

白い光は「たくさんの色が混ざっている状態」

実は白い光って、赤や青、緑など、ぜんぶの色がまざってできています。これを、量子の世界では「スーパー・ポジション(重ね合わせ)」といいます。たくさんの可能性が同時にある、という意味です。

フィルターを通すと、1つの色だけ見える

作品の中では、この白い光をフィルターに通します。すると、一部の色しか見えなくなります。これは、「観測すると、可能性の1つだけが現れる」という量子の考え方の体験です。


🧠 それが社会とどう関係あるの?

この「光と色の話」は、実は人の考え方や社会のことにもつながっています。

  • 白い光 →   社会は本当はいろんな考えがまざってできてる
  • フィルター → 自分の考えや見方
  • 見える色 →  自分の考えでしか見えない「一部の世界」

つまり、自分の考えだけにとらわれていると、本当の社会の全体が見えなくなるよ、ということを伝えているのです。


2025年5月には大阪市内で、7月24日には、大阪・関西万博オランダ館で展示する予定です。

【参考】

https://www.linkedin.com/posts/tudelft_university-students-innovation-ugcPost-7317479822325108737-f-zT

 

https://www.instagram.com/emergencedelft