イラン戦争が激化しているので、ヤーギンの『新しい世界の資源地図』(2020)を勉強しなおしました。前著の『石油の世紀』(1991)と比較すると、世界が30年でどう変わったのかがよくわかります。

| 観点 | 『石油の世紀』 (The Prize) | 『新しい世界の資源地図』 (The New Map) |
|---|---|---|
| 中心テーマ | 石油をめぐる「支配」と「争い」の歴史 | エネルギー・気候・国家の衝突による「地図」の書き換え |
| 世界の構図 | 石油への依存がもたらす「脆弱性」と「紛争」の時代 | 豊富なエネルギーと脱炭素化が並存する「過渡期」の複雑性 |
| エネルギー主役 | 石油 (Oil) が世界を動かす | 石油は依然として重要だが、天然ガス、再生可能エネルギー、電気自動車が競合する「ミックス」の時代 |
| 地政学的焦点 | 中東が世界のエネルギー地政学の中心 | 中東に加え、米国(シェール)、ロシア、中国がそれぞれ独立した「地図」を持つ多極構造 |
| 米国の位置づけ | 世界最大の石油輸入国。中東への依存と「石油武器」への脆弱性に悩まされる | シェール革命により世界最大の石油・天然ガス生産国に。エネルギー自給がもたらす外交的・戦略的優位 |
| ロシアの位置づけ | 冷戦期の西側への石油供給停止(1973年)など、石油を地政学的武器として使用 | 欧州へのガス供給を通じた「エネルギー・スーパーパワー」としての地位を築く |
| 中国の位置づけ | 主要なプレイヤーとして登場せず(冷戦終結直後の段階) | 世界最大のエネルギー消費国。南シナ海での海洋進出、「一帯一路」による資源ルート確保、電気自動車による「飛び越え戦略」 |
| 安全保障の定義 | 「エネルギー安全保障」=供給の途絶リスクへの対応 | 「エネルギー安全保障」は依然重要だが、それに加えて「気候安全保障」という新たな軸が出現 |
| 主なリスク | 石油をめぐる戦争(湾岸戦争)、産油国による禁輸、石油メジャーと産油国の対立 | 気候変動と脱炭素化への移行リスク、米中の新冷戦、サイバー攻撃、インフラへの物理的攻撃 |
| テクノロジー | 石油採掘技術(深海掘削など)が地政学を変える | シェール(フラッキング+水平掘削)、電気自動車、蓄電池、AI、デジタル化が地政学そのものを再編 |
| 環境・気候 | 環境問題は規制や石油流出事故などの局地的な文脈で言及される程度 | 気候変動は中心的なテーマの一つ。「エネルギー転換」が国際政治の最前線に浮上 |
| 市場構造 | メジャー(エクソン、シェルなど)とOPECが市場を支配 | 独立系企業(シェール)、国家資本、投資家(ESG)、市民社会の影響力が増大。供給者は多様化 |
| 歴史観 | 石油という商品が20世紀の歴史(戦争、繁栄、国際関係)をどう形作ったかの物語 | エネルギーシステムの「継続」と「断絶」の両方を視野に入れ、歴史的文脈の上に現在の地政学的衝突を位置づける |
| 未来予測 | 石油の時代は続くが、地政学的リスクは軽減されない | 石油とガスは数十年にわたり世界を動かし続ける。エネルギー転換は不可避だが、「妨げられる未来」も想定した現実的な移行が必要 |

世界を米、中、ロ、中東と分けると、シェール・オイルで米国がエネルギー輸出国になった。中国が世界最大のエネルギー輸入国になった。ロシアはエネルギーの輸出先を欧州から中国に変更。中東は、エネルギーの多様化(再生エネルギーなど)とEVの普及で新たな道を模索しているのがよくわかりました。
こういうフレームワークを下敷きにすると、今回のイラン戦争が、石油を巡る争いでないのがよくわかります。トランプ大統領がそう考えているかは別として、米中対立のひとつの正面とみるべきなのだと思います。
日本政府が石油を備蓄してくれていたことに感謝します。同時に、このフレームワークに全く入らない日本の異様さも感じます。これほどエネルギーを外部に頼っている以上、国際政治のプレーヤーとして、手を打たないといけないと思いました。
では。