Daniel Kahneman Penguin 2012/5
邦題は、『ファスト&スロー』。著者は、ノーベル経済学賞を受賞したカーネマン教授。行動経済学の第一人者。 私が大学で習った経済学は、合理的な経済人を前提としていました。Behavioral economicsは、実際の人間による実験やその観察を重視し、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを研究します。分厚い本ですが、自分がどんな勘違い・偏見を持ってしまうのか網羅されており、勉強になりました。
第1部 概要
人間の脳の働きを2つのシステムに分ける。システム1とは、自動的かつすぐに起動し、自発的にコントロールできないような働きのこと。
It (System 1) continuously monitors what is going on outside and inside the mind, and continuously generats assetments of various aspects of the situation without specific intention and with little or no effort. p.89
システム2とは、精神活動に必要な注意力をかき集め、選択や集中といった主観的な経験に伴うような働きのこと。
第2部は、ヒューリスティックとバイアスについて。Heuristicとは、必ず正しい答えに至るわけではないが、近似解を得ることができる方法。
第3部は、自信過剰について
第4部は選択について。
著者は人間の「不合理さ」とその背景にある構造を明らかにしようとしており、新鮮でした。いくつかの言葉をメモしておきます。
不確実性下における意思決定モデルの一つ。
アンカリング
先行する何らかの数値(アンカー)によって後の数値の判断が歪められ、判断された数値がアンカーに近づく傾向のこと。
フレーミング
物事のどの部分を基準とするか、数字データなどの見せ方を変える事で、その物事に対する判断を大きく変えてしまうという事を解説した理論。
ピーク・エンド法則
自分自身の過去の経験を、絶頂時と終末時の感覚で判定する、という法則。
埋没費用(Sunk cost)
投資のうち、事業を中止しても戻ってこない金額のこと。
プライミング効果
あらかじめある事柄を見聞きしておくことにより、別の事柄が覚えやすくなったり、思い出しやすくなること。
確証バイアス(Confirmation bias)
仮説や信念を検証する際にそれを支持する情報ばかりを集め、反証する情報を無視または集めようとしない傾向。
メンタル・ショットガン
必要以上の情報処理をしてしまうシステム1の働きのことは
「感情という尻尾は合理的な犬を振り回す」
・損失回避性
損失に対する感応度は、同じ額の利得に対する感応度よりも大きい。
・ベルヌーイの理論(期待効用理論)
リスク回避性を説明。ギャンブルの心理的価値は、起こりうる金銭的結果の加重平均ではなく、起こりうる結果の効用の加重平均。
・後悔理論:プロスペクト理論に後悔や失望を加える。
・保有効果:持っているものを手放す苦痛は同じものを手に入れる喜びを上回るので価値も高くなる。
・現状維持願望:損失回避の指向が強いため、組織や人が参照点近くにとどまる。
・決定加重と確率の乖離:可能性がゼロに等しいチャンスが過大評価される。
・四分割パターン:プロスペクト理論に基づき、損失と利得、高い確率と低い確率の4つの組み合わせで表現する選好パターン。
・デフォルトの選択と後悔:既定路線から外れたことをして失敗すると後悔が容易になるため、ひどく苦痛を感じる。
・選好の逆転:2つのシナリヲを単独で見たときと、並列して見たときで評価が変わる。
・感情フレーミング:問題提示の仕方が考えや選好に不合理な影響を及ぼす。
・記憶する自己:人は経験を時間に比例して評価せず、ピークの記憶と終了時の記憶で評価する傾向がある。一種の認知的錯覚。
・幸福の感じ方:生活評価は貧富の差に関係するが、幸福感は貧富の差とはあまり関係がない。
・焦点錯覚:あることを考えているとき、人生においてそれが実際以上に大事に思える。
私の脳も処理しきれなくなったのでこのへんで。